現在の美術作品を展示する空間の形式にホワイトキューブと呼ばれる空間がある。このホワイトキューブは世界中の美術館において標準的な展示空間として扱われているが、そこには展示作品との相互関係において問題があることも指摘されている。作品の形態が多様化し,ホワイトキューブの基本的な機能を持ちつつも独自の展示空間を持つ美術館が増えた現状を調査した。その上で,光(照明の種類や開口部)による演出で同じ企画展示室を全く違う雰囲気に演出している展示空間を参考に,照明器具を用いた鑑賞体験の演出は行えると仮定した。
本制作では,一般的にギャラリーで展示され,且つ一様な照明で照らされる絵画や彫刻のような「観る対象が明確な鑑賞」がされる作品の中で暫定的に絵画を選定し,それを独自に分析し,その作品のための照明器具を制作しインスタレーションに昇華させることを目指した。また,展示のしやすさを重視した民間ギャラリーで展覧会を実施し,現在展示空間として標準化しているホワイトキューブの問題に対し,照明器具による鑑賞体験の演出を図る回答的作品の実制作を行う。
この照明作品による演出はギャラリーのみならず絵画を置く自宅にも適応でき,新たなインテリアとしての可能性も見据えている。
照明(光)は,空間を構成/演出する上で切り離せない役割を担うが大抵の照明器具は私たちが普段生活する空間を照らすことや,対象物を照らす役割しか与えられていない。そこで空間を演出する力,すなわち空間を形作る力を持つ照明器具をより個人的に使用することで,単に空間に光を与えるだけでなく,空間演出を行うことができるのではないだろうか。
一方美術の歴史を辿る。現在の美術作品を展示する空間の形式にホワイトキューブと呼ばれる空間がある。このホワイトキューブは世界中の美術館において標準的な展示空間として扱われているが、そこには展示作品との相互関係において問題があることも指摘されている。
本制作では,「照明器具はオブジェクトを照らすという役割に留まらず,空間そのものを形作る」という仮定を元に,暫定的に「絵画を照らす照明器具」という設定を設けた。そうすることで,その絵画と,絵画を元に制作した照明器具から放出される光による空間演出によって,新たなインテリアとしての照明器具の空間演出力における可能性の探求と、ホワイトキューブと平面作品における新たな関係性の可能性の試行を行った。
第33回日本インテリア学会大会 優秀賞受賞